今回のブログではWBC2016に出場した上位12名の競技内容を簡単にご紹介したいと思います。
アイルランドのダブリンで開催されたこの大会にはカフェタイムのスタッフも観戦に行きました。
この年からグラインダーは各自で自由に選択するのではなく、グラインダースポンサーであるMahlkonig社のEK43またはK30をしての競技になります。
15分でエスプレッソ4杯、ミルクビバレッジ(カプチーノなど)4杯、シグニチャービバレッジ(エスプレッソを使用したアレンジドリンク)4杯を提供します。
点数は味、技術、プレゼンテーションにより評価されます。
準決勝に進出した上位12名の競技内容を、簡単にご紹介いたします。
※略語
ESP = エスプレッソ
MB = ミルクビバレッジ
SB = シグニチャービバレッジ
ワールドバリスタチャンピオンシップ2016
台湾 1位 Berg Wu
使用豆 : パナマ フィンカ デボラ ゲイシャ ウォッシュト
グラインダー EK43×2台
全てのコースで、香りの成分を飛ばさないためにポルタフィルターを冷やす。
デボラの複雑さを最大限に表現するための工夫。
ESP
粉量 : 19g
抽出量 : 43g
フレーバー宣言 : ジャスミン、オレンジ、アフターテイストにハニー、シルキーマウスフィール
農園、処理過程の多くの説明あり。
MB
粉量 :20g
抽出量 :41g
フレーバー宣言 : マンダリンオレンジ、トフィ、アールグレイティーフィニッシュ、透明感を感じて欲しい。
150mlオーガニックミルク。メッシュはより強いシトラスノートを出すためにより細かく挽く。
SB
エスプレッソの抽出量を少なくすると長く続く余韻を犠牲にしてしまう。しかし多くするとアロマやフルーツ感を犠牲にしてしまう。バリスタはそのバランスをとるため常に何かを犠牲にする。SBでは両方の良さを表現したい。
粉量19.5g 、抽出量51gのエスプレッソ使用
フレーバー宣言 : ジャスミン、マンダリン、ベルガモット
材料 : 15gのオレンジジと蜂蜜の濃縮ジュース、15gのアールグレイティー、マンダリン オイル。
全てを窒素充填する。
※第2位 日本 岩瀬バリスタ
使用豆 : エチオピア+パナマ ナインティ プラス社
カナダ 3位 Ben Put
使用豆 : エチオピア サモン アベィ ナインティ プラス社
テーマ : リスク
グラインダー K30vario×2台
テーマ 、、、リスクをとると、時には素晴らしい結果になる。
生産者サモン氏がとったリスクの説明。サモン氏はナチュラルプロセスにおいて通常通りの乾燥方法をとらず、チェリーを重ねて発酵させ35日間以上の乾燥期間をとらせた。その結果素晴らしいフレーバーが生まれた。
それに触発され自分もESPとSBでリスクをとる。
ESP
粉量 : 20.5g
抽出量 : 50g
秒数 : 42秒
ESPの炭酸(ビターのもと)を真空包装器で抜く。ビターを抑えてよりトロピカルを感じることができる。またネガティブな酸を抑えてよりフルーツの酸を出すことができる。さらにこの器機を使用することで、飲み頃の温度にすることができる。
しかしこの真空機によりフレイバーを変えてしまうリスクがある。
※先にジャッジに炭酸を飲ませビターさを体験させる。
フレーバー宣言 : パッションフルーツ、ストロベリー、チェリー、カンテロープメロン、ミディアムボディ、スムース、チョコレートフィニッシュ、アフターテイストにタンニン。
MB
粉量 : 22g
抽出量 : 48g
秒数 : 38秒
45°Cのミルク。
フレーバー宣言 : バナナプリン、ストロベリー、チョコレートアイスクリーム。
SB
フルーツ感と甘さをハイライトさせたい。
材料: ESPとMBからのショットと特殊なエアロプレス抽出によるコーヒー(15g の300-600ミクロンのメッシュのサモンアベィ、120gの高マグネシウムかつ高緩衝成分の水による40g 強度11%、26%抽出率のコーヒー。エアロプレスにより20秒、15気圧での抽出) この抽出液の作成がSBに必要な素材だが、この精度を要するドリンク作成自体が実はリスクでもある。
フレーバー宣言 : パッションフルーツ、ストロベリー、メロン、チョコレート、シルキーボディ。
アメリカ 4位 Lem Bulter
グラインダー EK43、K30
使用豆 : パナマ ゲイシャ
※競技開始直後に全てのドリンクのフレイバーを宣言。またスプーン置きの説明と、先にSB用のショットを抽出し冷やすこと、またその後何について話していくのかも先に説明。
多くの農園情報あり。現地での実際に農園主とおこなった処理過程についての詳しい説明あり。
ESP
粉量 :20g
抽出量 :40g
フレーバー宣言 : 明るいライムの酸、少しのグレープフルーツ、ストーンフルーツの甘さ、長く続くコーヒーの苦み。ミディアムボディ
最低10回かき混ぜる。
焙煎情報あり。フレーバーの生かし方と酸についての説明。
MB
4ozカップ
フレーバー宣言 : クリーミーMF、バター、アーモンド、トフィ、少しのライムの酸
SB
材料 :冷やしたエスプレッソ、25ml マグノリア花のシロップ、5g ハイビスカス。全てを混ぜて窒素を充填する。
1口目 レモン 、2口目 チョコレート、クランベリー 口目 、ダークチョコレート、ジャスミン、マンゴリア
最後にレモングラスをグラスの縁に塗り付ける。
※インタビューでの会話
「プレゼンの原稿はあるけれど全てその通り言うわけではない。最初の30秒でジャッジの心を掴むのが大事。もし掴めなければ、掴めるようにプレゼンの進行を変える。ジャッジにリラックスしてもらうこと心を掴む事を大事にしてる、それは普段の仕事でも一緒。ナショナルで1人のジャッジの心をどうしても掴む事が出来ず、プレゼンの最後までその人に口調や身振り手振りでアピールしたんだ。」
フランス 5位 Charlotte Malaval
グラインダー EK43、K30
使用豆 : エルサルバドル フィンカ サンロベルト レッドブルボン フリーウォッシュト
キーワード「excellence is not always what it seems」(素晴らしさというものは、いつも思った通りの形で表現されるわけではない)。人は自分の認識で一方的に理解してしまう。
イーゼルに立て掛けたウサギの絵を、90°C角度を変えるとアヒルの絵になる事で人の認識の仕方を実演。
ESP
粉量 : 18g
抽出量 :38g
フレーバー宣言 : 明るいプラムの酸、オレンジの風味、フィニッシュにフローラルノート。長く続き、デリケート。シルキーでスムースなテクスチャー。
MB
粉量 : 15g
抽出量 : 26g
エスプレッソをペーパーフィルターで濾し、より透明感を出す。
フレーバー宣言 : チョコレート、アーモンド。クリーミー、ベルベット テクスチャー。5回かき回して少し冷ます。よりきれいになる。
ドリンクの素晴らしいイメージを視覚化させる(MBの良さをテロワール、生産処理、使用するミルクなど4個のパーツに分け、説明をしながらイーゼル上のボードに1個づつ置いていき、最終的にミルクビバレッジのカップが完成する)
SB
材料 : チェリーフレイバーを再現するために、ストロベリー、バジル、シナモンをエスプレッソに混ぜ合わせる。
最後に、最初から見せてあったコーヒーチェリーが沢山実った健康的な木のパネルをひっくり返し、樹齢80年の剪定されていないボロボロの木を見せる(今回使用したコーヒー豆の木の本当の姿)。
「quality can happen anywhere」
どこにでも高品質の可能性はある(感覚で品質を推測してしまうのは危うい事)。それを伝えるのがバリスタの仕事。
オランダ 6位 Lex Wenneker
キーワード「品種の違い」
レストランでワインを頼む時は品種を見るが、コーヒーでは品種ベースでは選んでいない。
品種がフレーバーに与える影響にフォーカスしたい。
各ドリンクで違う品種を使用。
各ドリンクのプレゼンに入る前に、ワイン瓶のコルクを開け、ワイングラスに試飲用コーヒーを注ぐ(中身はドリップコーヒー)。
使用豆 コロンビア ラス マガリタス農園 ナチュラル
同じ焙煎方法。
ESP スーダン・ルメ種
粉量 : 20g
抽出量 : 50g
フレーバー宣言 : ミディアム スイート、ハイ アッシデティー、ローからミディアム ビター、シルキー マウスフィール、ヘーゼルナッツフィニッシュ。10回かき混ぜて少し冷ましフレイバーを明確にする。
MB ゲイシャ種
粉量 : 20g
抽出量 : 40g
1:4のエスプレッソとミルクの割合
フレーバー宣言 : ココナッツ、キャラメル、ヨーグルト
SB パカマラ種
パカマラのフレイバーを表現したドリンク。ヘビースイートネス、クリーミーボディ、ブライトアッシディティの印象。
フレーバー宣言 : ネクタリン、クリーミーボディ、ブライトアッシディティ、アフターテイストにざくろ
アイルランド 7位 Natalia Piotrowska
使用豆
エスプレッソ : コロンビア アルマンド フェルナンデス スーダン ルメ ウォッシュト
ミルクビバレッジ: コロンビア カミュロ マリザルデ スーダン ルメ ナチュラル
小さなコミュニティ内で繋がりを作りたい、そしてスペシャルティコーヒーをすべての人に伝えたい。
スーダン ルメ種はスペシャルティコーヒーの素晴らしさを伝えるのにとても良い。
ESP
粉量 : 20g
抽出量 : 40g
フレーバー宣言 :
1口目 シルキー テクスチャー、ライム アッシディティ
2口目 レーズン、プラム、グレープフルーツ
3口目 ミルクチョコレートでコーティングされたレーズン
MB
フレーバー宣言 : カラメル、レーズン、ミルクチョコレート
SB
材料 : 10g トルコ産リンゴのインフュージョン、12g スモークプラム、1g パネラ糖、10g 氷
クリーミーにするためにブレンダーで混ぜる
フレーバー宣言 :
1口目 クリーミー マウスフィール、ライム アッシディティー
2 口目 クランベリー
3口目 ダークチョコレート
オーストラリア 8位 Hugh Kelly
使用豆 コロンビア カスティージョ エル・ミラゴー
今回使用するものは希少品種ではない。カスティージョは生産性を目的に植えられている品種である。
しかし素晴らしいアプリコット フレーバーがある。
赤く熟したコーヒーチェリーは糖度11% 。深紫まで熟したものは他の品種では身が落ちてしまう熟度。その糖度は25%。しかしカスティージョでは味が落ちない。この高熟度により生き生きとしたシトラス系の酸味が生まれる。
ESP
パルピングしたパーチメントをビニール袋に入れて冷凍することで、発酵を遅くさせアプリコットフレーバーを生む。〈模型を使用し視覚的にも説明〉
粉量 : 21g
抽出量 : 38g
フレーバー宣言 : スパークリングシトラス アッシディティ、アプリコット、オレンジブロッサム、ミディアム ウエイト、シ
ルキー マウスフィール、ドライ レッドカラント(3口目)
MB
樹上でのナチュラルプロセスによりラズベリーマシュマロ フレイバー。
フレーバー宣言 : MBのための焙煎によりホワイトチョコレート フレイバー
投入温度、焙煎度合は同じだが2分間長くしキャラメル化を進めさせた。 焙煎進むとガスが多く出る。3週間でもまだガスが多かったためエイジングは1ヶ月。そうすることでフレイバーが明らかになった。
150gのミルクを使用。
SB
お客様にとっては希少品種にはないアクセシビリティ。この品種をより楽しんでもらいたい。
材料:
1g フリーズドライの桃 ー アプリコットをより明確にするため
1g ココナッツシュガー ー フルーツ感を全面に出すため
2ショットのESP
2ショットのMB用のESP
14%濃縮ブラックカラント(視覚的にも印象的なブラックカラントの濃縮器を使用)
以上を合わせるとラズベリージャムのように感じる。
全てを氷と混ぜる ー これによりクリーミーになる。
フレーバー宣言 : クリーミーMF、アプリコット、ドライ レッドカラント、オレンジ、ラズベリージャム
UK 9位 Dan Fellows
使用豆 エチオピア ナチュラル ナインティプラス社 ネキセ
すべての段階でフレーバーにフォーカスする。プロセスから抽出まで。
収穫からの細かい説明。
実現できる最高のクリーンさのために3回のカラーソーティング。
全てにおいて正確さが必要。それはプロセス、バリスタテクニックにおいても同様。
エイジングは11日
ESP
粉量 : 21g
抽出量 : 42g
ハイ フルーツイートネス、ミディアム トロピカル アッシディティ、ロー ビタネス、
ミディアム ウエイト、ミディアム テクスチャー、ロングスイートフィニッシュ
フレーバー宣言 : パッションフルーツ、レッドプラム、ブラックチェリー、60%ペルー産ダークチョコレート
6回かき混ぜてから飲む
MB
1:4ミルク
※スチーミングに温度計使用
ハイ スイートネス、ミディアム アッシディティ、ロー カカオ ビタネス、
ミディアム ウエイト、ミディアム テクスチャー、ロング キャラメルフィニッシュ
フレーバー宣言 : 40%ミルクチョコレート、クリームで覆われたプラム、ライト トロピカルノート、キャラメ
ル
6回かき混ぜてから飲む
SB
塩味や旨みなど5味を生かし、ネキセを表現
フレーバー宣言 : フレッシュストロベリー、ココナッツクリームで覆われたチェリー、ドライパイナップル、ブ
ラウンシュガー、塩キャラメル
アロマインフュージョンでトロピカルアロマを香りながら飲む
ドイツ 10位 Erna Tosberg
使用豆 コスタリカ カトゥーラ、カトゥアイのナチュラル〈ブラックユニコーン プロセス。スイートでクリーンでブライトに〉
※ブルーベリーを使用して実践しながらブラックユニコーンプロセスの名付けた乾燥方法を説明。
蒸し器に入れて、取り出し乾燥させる。乾燥を2工程に分ける→サウナ方法で蒸し、換気設備がある部屋で乾燥。
サウナ方法は黒いプラスチックバックでカバー(ブラックユニコーンの名称由来)。
理由は細胞の統合性にある。Flavio Boremの発表によるもの〈ナチュラルプロセスにおいては乾燥工程を早く済まそうとすると細胞の統合性が失われ劣化につながる。乾燥時に表面にある水分が失われると劣化が進むが、グルコースなどの糖分が表面の水分と入れ替わることで細胞の統合性が守られ、劣化を防ぐ。それには正しい温度と正しいコンディションが必要〉
全てのコースで粉量20g、抽出量50g、抽出時間25秒
エイジングは3週間
ESP
フレーバー宣言 : ブルーベリー、レーズン、ブラジルナッツ、カカオ、生き生きとした酸 , ミディアムボディ、クリーミー、スムース、ラウンド、ロングフィニッシュ、ロービター。
MB
フレーバー宣言 : ラムレーズン、ヘイゼルナッツ、カカオ。
1:5の割合のミルク
SB
このプロセスにおいて、糖分の移動だけではなく糖分の幾つかが乳酸に変化する。
材料ー発酵乳、砂糖、塩、ブルーベリージュース
フレーバー宣言 : ブラッドオレンジ、タマリンド、ナッツ、カカオ
香港 11位 Dawn Chan
使用豆 コロンビア セロアスール ゲイシャ ウォッシュト
3年間関わり続けた豆。
産地にフォーカスするバリスタやラボで研究するバリスタなど様々な形があるが、私はカスタマーにとってベストなカップを提供し続けようとするバリスタの1人。それを誇りに思う。
今回の豆は生産者とロースターとのコラボによるもの。バリスタがそれをカスタマーにつなぐことができる。
バリスタがどれほどコーヒーに影響を与えられるか。
MB
トラディショナルなフレイバーではなくフルーティー、スイートなもの。
1:3のミルク割合
フレーバー宣言 : ドライピーチ、ピーチガムのよう。
白と黒の容器が同時に提供。MBを飲んだ後、どちらか一方を選んで飲み、再びMBを飲みフレイバーを楽しんでもらう。楽しむためのもので評価には含まない。
リフレッシング&ブライトを楽しむなら白
トラディショナルなスイスチョコレートなら黒
ESP
粉量 : 20g
抽出量 : 50g
フレーバー宣言 : タンジェリン アッしディティ、レモンブレックファーストティー、シルキー、ライトボディ、心地よくドライ、長引くティーフィニッシュ。
MBと同様にフレイバーの変化を楽しむ。
ハニー、リフレッシング、ブライトを楽しみたいなら白
ハニー、ブラックチェリーなら黒
SB
使用材料は、
MBの黒のコールドプレス グレープジュースと白のキュウリジュース48時間発酵、
ESPの黒のハイビスカスブラックティーと白のカモミールティ。
以上の要素はセロアスールに感じられるもの。
4ショットのESP ーこれは現在まで得てきたこと。
全てを合わせ炭酸飽和させる。
フレーバー宣言 : スパークリングブラックティーセンセーション、グレープフルーツ、ティー、チョコレート
中国 12位 Ying Hu
使用豆 パナマ フィンカ デボラ ゲイシャ ハニープロセス
テーマ
11年間に渡るバリスタ、カフェオーナー、コーヒーラバーとしての経験を活かし合わせたもの。
SB
顧客の目線で考え、SBをチョイスできる。温かいものか冷たいものかを1人のジャッジに今回のSBをチョイスさせるー冷たい方を選択。
バリスタ、オーナー、カスタマーの思いを合わせたSB
2つのビバレッジをサーブ。
共通の材料はプロセシング時に取ったカスカラを使用したカスカラシロップ 25g
1つめはカスカラシロップ25g、オレンジジュース、スパークリングウォーター
〈SBと同じキャラクターを感じる〉
2つめはカスカラシロップ25g、オレンジジュースの氷120g、ESP
フレーバー宣言 : バランスが取れることにより、バニラ、スイートチョコレート、スイートオレンジ
MB
粉量 : 21g
抽出量 : 33g
フレーバー宣言 : マカダミア、クリーム、ラズベリーフィニッシュ
ESP
粉量 : 21g
抽出量 : 38g
フレーバー宣言 : ネクタリン、アプリコット、グレープフルーツ、ミディアムボディ、スムース
※『スペシャルティコーヒーが素晴らしいということを、バリスタとして紹介できてこのコーヒーを高められ、カフェオーナーとしてサステイビリティとは何かを示すことができ、カスタマーとして記憶に残るものとは何かを表現できたと思います。』