今回のブログではWBC2017に出場した上位6名の競技内容を簡単にご紹介したいと思います。
カフェタイムのスタッフは韓国ソウルで開催されたこの大会も観戦に行きました。
この年からテーブルセッティングを9パターンの配置から選択することができます。また抽出温度を調節することが可能となりました。
15分でエスプレッソ4杯、ミルクビバレッジ(カプチーノなど)4杯、シグニチャービバレッジ(エスプレッソを使用したアレンジドリンク)4杯を提供します。
点数は味、技術、プレゼンテーションにより評価されます。
決勝に進出した上位6名の競技内容を簡単ではありますがご紹介いたします。
※略語
ESP = エスプレッソ
MB = ミルクビバレッジ
SB = シグニチャービバレッジ
ワールドバリスタチャンピオンシップ2017
1位 イギリス Dale Harris
使用豆 : エルサルバドル フィンカ ラスブルマス SL28 フリーウォッシュト
グラインダー Vario30
GC/MSガスクロマトグラフィー質量分析法を使用してコーヒーの化合物を特定。
使用するコーヒーで発見した10種類の化合物を軸に、フレーバーにフォーカスしたプレゼンテーションをする。
GC/MSで品種違い、農園違い、標高違いのコーヒーを分析した。またベストな焙煎度合いや抽出に含まれる化合物も特定した。これらの調査によって化合物を提示することで、初めて標高や品種などの農園情報が味と結びつく意味のある情報となると思う。
使用するコーヒーは最初の収穫まで7年もかかり、チェリーの成熟も他の農園よりも15%長くかかる、標高1,850mの自然林のシェードの下で育ったゆっくりと成熟した(スローマチュレーション)コーヒー。
MB
粉量 : 20g
抽出量 : 40g
21%の抽出効率、脂肪分2%の牛乳120g、50度で提供
フレーバー宣言 :
フラネオールに由来するバニラ
アセトンに由来するブラウンシュガー
3-フルアルデヒドに由来する洋梨
ESP
粉量 :20g
抽出量 :44g
フレーバー宣言 :
2-メチルプロパナール(イソブチアルデヒド)に由来するザクロ
2-フェニルメタノール アセトンに由来するエチオピアの蜂蜜
リモネンと2-アセチルピノールに由来するキャラメル化したオレンジ
ピノ・ノワールを思わせるシルキーなマウスフィール
SB
スローマチュレーションによって作られた3化合物。これらの化合物はエスプレッソのトップノートで感じられるものではないが、繊細で品質の良さを感じさせてくれる重要な要素である。これらのフレーバーを際立たせたドリンクを作成したい。
フレーバー宣言 : 一口目 クリーミーマウスフィール、80%ダークチョコレート、ウーロン茶の苦味。二口目にオレンジクリームソーダ
材料 :
1.ボタニカルやハーブのアロマに繋がる1-メチルピロール。これを京都の4gウーロン茶を加えることで際立たせる。
2.スイートカカオのアロマに繋がる2,6 ジメチルピリジン。125gの水分に35gの乳酸発酵させたカカオニブを溶かして濾し、65gの氷で薄め冷やしたものを各ドリンクに5g。自ら6年間培養したサワードウの酵母で3日間発酵させたカカオニブは自然なカカオの甘さを引き出し、エスプレッソにバランスを与えます。
3. クリームのフレーバーに繋がる2,3-ヘキサンジオン。250gのフレッシュミルクに8gのクエン酸を入れPH4.6にして、牛乳を分離させてホエーをペーパーで濾し取ります。これを加えることにより、エスプレッソで感じられたオレンジが新フレーバーへと変化する。
全てを凍らした石で希釈することなく冷やし、窒素充填によりクリーミーなマウスフィールをだす。
2位 日本 鈴木 樹
使用豆 : ボリビア フィンカ アラシータス ペドロ・ロドリゲス ゲイシャ ウォッシュト
グラインダー EK43×2台
エスプレッソの抽出は大抵妥協が伴うと言える。何かポジティブな要素を得ようとする、何かを失う。だが、全てのポジティブな要素を出したいと思わせるコーヒーに出会った。フィンカ アラシータス ボリビア ゲイシャ。フローラルと素晴らしい甘さがある。
従来の方法ではその全てを抽出することができなかった。そして新しい抽出方法を発見し、全てのポジティブな要素を抽出することが可能になった。
それが「ダブルグラインド」による抽出。
44gのコーヒー豆に20gの液体窒素を入れて、極粗挽きにする。そして極粗挽きのコーヒーに20gの液体窒素を入れて、エスプレッソように細かく挽く。冷やすことで粉の粒度分布がより均一化し、また細かい粒度が増えた。このことにより表面積が増えて甘さとフレーバーが増加した。さらに、ダブルグラインドをすることで表面積が10%増加した(レーザー回折式粒度分布測定)。
このテクニックにより、多い抽出量で出てしまう渋味を出さずに、フローラルなフレーバーをより引き出し、ビターさとテクスチャーを向上させることができる。
農園ではシェードツリーを全て排除することで、この農園では木はより健康になり、コーヒーはより甘さが増した。またフラビオボーレン・ メソッドと呼ばれる、発酵工程で水を2回交換する方法をとることで、フローラルなフレーバーが増した。そして、乾燥工程では常に40度以下を維持する低温乾燥をすることで、このコーヒーのクリーンさを維持している。
ESP
粉量 : 23g
抽出量 : 50g
温度 : 92度 (甘さの最大限に抽出するため)
フレーバー宣言 :
一口目 フレッシュオレンジ、ブラウンシュガー
二口目 ベルガモット、ブラックティー フィニッシュ
カスタムメイドカップにて提供(よりクリアにフレーバーを感じてもらうため)。
MB
粉量 :23g
抽出量 :50g
ミルクの量 : 各70g
フレーバー宣言 :
マンダリンオレンジ、キャラメル、ミルクティー
SB
ロングエクストラクションによる新たな風味の発見。ESPではなかったグレープとアップルの風味が感じられる
粉量 :23g
抽出量 :70g
材料 :
1. 0.1gのフリーズドライした乳酸(グレープとアップルの風味を増強)
2. 5gのフリーズドライした蜂蜜 (バランスをとる)フリーズドライにより希釈を回避
3. ラベンダーアロマ(液体とのシナジーによりピーチのフレーバーを生む)
バキュームミキサーによりESPのガスを排除(シルキーなテクスチャーを生む)
フレーバー宣言 : グレープ、レッドアップル、ホワイトピーチ、ブラックティー フィニッシュ
3位 香港 Kapo Chiu
使用豆 : エチオピア ゲイシャ ビレッジ ゲイシャ1931
このプレゼンの要点は新しい抽出方法やプロセスのテクニックではない。
しっかりと生産され、焙煎され、抽出したコーヒーを紹介したい。丁寧な生産、焙煎、抽出はコーヒーの素晴らしさに欠かせないことなので、このとを伝えたいと思う。
このコーヒーを選んだ理由は、バランスと複雑さが良いからだけではない。素晴らしいコーヒーを生産したいというアダムとレイチェルの情熱が、彼らをゲイシャのルーツであるゲイシャ村へと向かわせた。そしてゲイシャビレッジを始めたレイチェル氏の、「最高の品質のコーヒーを生産したい」という思いと、自分のベストなバリスタになりたいと言う思いが一致した。
自分は様々な焙煎の方法や抽出の方法を試してきた。そしてそれらの経験から、そのコーヒーがどうしてそのような味がするのかをお客様に説目をしてきた。今日もそのようなことをしていきたい。
そして、副材料を加え、新しい方法によって、このコーヒーの新しいフレーバーを作り出す、ということをやりたい。
ゲイシャ1931はパナマゲイシャを思わすフローラルなアロマを持つ。エスプレッソではフローラルなアロマを保持したいので焙煎度を浅くした。
焙煎は1ハゼ後は華氏8度の温度上昇のみで焙煎を終了した。だが2:30のデベロップメントタイムを取った。
標高は1,900-2,100mであり、その高い標高がブライトでコンプレックスな酸を与える。
3週間の乾燥工程。
グラインダー EK43
ESP
粉量 : 20g
抽出量 : 45g
温度 : 93度 (複雑な酸味とフルーティーさを出すため)
アロマ : 砂糖漬けしたマンゴー、オレンジブロッサムハニー
フレーバー宣言 :
一口目 マンゴー
二口目 パッションフルーツ、ホワイトグレープ
三口目 キリッとした白ワインのフィニッシュ
ミディアム ボディー、シルキー
MB
日本の3.6%ミルク。透明感とやや重めのテクスチャーがある。
粉量 :20.5g
抽出量 :45g
ミルクの量 : 4:1の割合
フレーバー宣言 : バニラ、パッションフルーツ、キャラメル
SB
フローラルなアロマ、複雑なシトラスの酸、シルキーなボディと甘さを強調させたい
粉量 :23g
抽出量 :70g
材料 :
1. Seedlip スパイスジン(ノンアルコール。オールスパイス、カルダモン、レモン、グレープフルーツ、ライムにより作成)10g (シトラス形、トロピカルフルーツ系の酸を補強するため)
2. ウイスキー樽で熟成させた蜂蜜(アルコール成分無し)20g(フルーツのフレーバーを増強させる)
増粘剤7g (ESPで感じられたシルキーなテクスチャーを再現させる)
これらをウイスキーボトルに入れる。
3. 1:10の割合の茶葉で2分間抽出したフレンチアールグレイティーにドライアイスを入れて、アールグレイのアロマを作り出し、ウイスキーボトルに3秒間注入する。
そして3秒間シェイクしてアロマと液体を混ぜわせる。ハーブ系のアロマを補完して、ゼラニウムを思わせる赤紫色の花のアロマに変化する
フレーバー宣言 : ビターオレンジ、グレープフルーツ、オレンジブロッサム、蜂蜜、タンジェリン
4位 カナダ Ben Put
使用豆 : パナマ ナインティプラス ゲイシャエステイト ゲイシャ ウオッシュト、実験的ナチュラル
フレーバーに影響を与える要素を一週間のパナマの農園での滞在で学んだ。
品種と処理方法だけでも、フレーバーに大きな影響を与えるが、今回の滞在では興味深く新しい方向で学んだ。
今回のコーヒーはゲイシャのみを生産している、ナインティ プラス ゲイシャエステートのコーヒー。ここでは常に新しいフレーバープロファイルを探すために、多くの時間を割いている。
標高は1,700m。
ESP
エスプレッソはウオッシュトを使用。伝統的なゲイシャのプレーバーを最大限に表現したい。これは自分が最初にゲイシャに魅了されたフレーバーでもある。
KRUVEを使用して粗い粉を取り除くことで、不快な酸の抽出を防ぎエスプレッソのバランスに与え、また抽出率をあげることができる。
アロマ : オレンジブロッサム
フレーバー宣言 : オレンジブロッサム、ルビーグレープフルーツ、キビ糖、デーツのアフターテイスト
マウスフィール宣言 : ミディアム ウエイト、シルキー、スムース、リンゴの皮のような渋みを少し
MB
ミルクビバレッジでは実験的ナチュラルプロセスのコーヒーを使用。
ミルク: 凍らして水分を減らし、濃縮させた牛乳を使用。これにより牛乳の糖分を濃縮させて、より甘いミルクになる
フレーバー宣言 : バナナ、チョコレートトリュフ、チェリーリキュール、アイリッシュクリーム
SB
ウォッシュトと実験的なナチュラルを飲み比べてもらいたい。
ゲイシャの果肉にもユニークなフレーバがある。農園に自然に存在しているイーストを培養してナチュラルプロセスのチェリーを高温発酵させる。これにより全く新しいゲイシャのフレーバーが作られる。
シグニチャードリンクでは自分が農園で体験したように、ウオッシュトのゲイシャのフレーバーを先に体験した後に、新しいナチュラルのフレーバーを体験して欲しい。使用する材料は両方のプロセスに合うものが必要。農園でのカッピングでは全てのコーヒーにフローラルとシトラスが感じられたので、これらに由来する材料を使用する。
材料 :
1. 10g グレープフルーツトニック : 煮詰めたグレープフルーツ、きび砂糖、水、キナノキの樹皮(トニックウォーターの主原料であるキニーネが含まれている)
2. 30g ローズウォーター : ガレガ種のバラから作られたローズウォーターを300:1で希釈したもの
グレープフルーツトニックとローズウォーターを、実験的ナチュラルプロセスのエスプレッソ2ショットに入れ、液体窒素で凍らす。その上からウォッシュトのエスプレッソ2ショットとに同じグレープフルーツトニックとローズウォーターを入れる。
最初にウォッシュトのシグニチャードリンクを飲み、その後で溶かしたナチュラルのシグニチャードリンクを飲む。
フレーバー宣言 :
一口目のウォッシュトゲイシャからはオレンジブロッサム、コーヒーの花のようなアロマ。マンダリン、キビ砂糖
二口目の実験的ナチュラルゲイシャからは赤ワインと花束のアロマ。オーク樽香の付いた赤ワイン、グレープフルーツ、チェリーリキュール、ローズ。
5位 オーストラリア Hugh Kelly
使用豆 : パナマ フィンカ デボラ ゲイシャ ウオッシュト(カルボニック マセレーション)
研究開発に関わることはとても素晴らしいことだ。今まで学んできたことに対して再度問い掛けることができるから。バリスタとして従わなければならないと思っていたルールを排除したら、全く新しい可能性が見えた。
今回はそれぞれのコースで新しいアプローチを紹介したい。
収穫後のチェリーを二酸化炭素とともに80時間密閉させて圧迫させる(カルボニック マセレーション)
それによりストロベリーのフレーバーが得られる。そのあと、パルピングして水洗処理をする。
グラインダー EK43、k30
使用するコーヒー豆を全て凍らせてある。それにより粒度分布がより均一になりフレーバーがより明確になる。
ESP
EK43
粉量 : 16.5g
抽出量 : 51g
前後に12回かき混ぜてから飲む
フレーバー宣言 : オレンジブロッサム、ローズのアロマとフレーバー。オレンジとストロベリーのフレーバー。
タクタイル : ライトからミディアム ウエイト、シルキー、ミディアムからロング フィニッシュ
MB
K30
粉量 :21g
抽出量 :38g
「Milk Cloud」使用。スチームによる水分(約10%)で希釈せずに、最初に注入した泡の粉砕をしつつ設定した温度まで温める装置。58℃に設定。
フレーバー宣言 : 赤いフルーツ、ストロベリー、キャラメル
SB
カルボニック マセレーションによるフルーツフレーバーと、エレガントで精製されたエスプレッソのフレーバーを合わせたい。
粉量 :12g (600マイクロンのメッシュ)
抽出量 :50g
材料 :
1.ブラックカラントと水を合わせ15時間煮詰めたもの 7ml
2.延長抽出したエスプレッソ(オレンジブロッサムとローズのアロマと味)
3. 50:50の粗糖とマヌカハニー(延長抽出したエスプレッソの酸のバランスを取るため)
マヌカハニーを少し焦がすことでストーンフルーツの風味を与えることができる。焦がすために綿飴機を使用する。これを0.6g。
フレイバー宣言 :
オレンジブロッサム、ローズ、ピーチ、レッドチェリー
6位 アメリカ Kyle Ramage
使用豆 : パナマ フィンカ ネグオ ゲイシャ ハニー、ナチュラル、実験的なウォッシュト
グラインダー EK43
クリストファー・ヘンドン氏の研究結果により、ドライアイスの温度であるマイナス79℃までコーヒー豆を冷やすことで、通常とは違う結果が得るれることが分かった。コーヒーをそのように冷やすことで、より均一な粒度と形でグラインドをすることができる。そしてその結果、より一層クリーンで甘くバランスのある抽出が可能になった。
今日はそれを試したい。使用する3種類のプロセスのコーヒーを全て凍らしてある。
ESP
1,850mのカーサ区画のハニープロセス。
パルプする前にリンスをして12-14日間のドライをアフリカンベッドでおこなう。このリンスの工程が、このコーヒーにより一層の透明感を与え、エスプレッソで体験してもらうフレーバーを感じさせてくれる。
フレーバー宣言 : ジャスミン、ライム、フレッシュチェリー
タクタイル : ライトからミディアムボディ、シルキー、ロングフィニッシュ、少しハーブだがポジティブに感じるトニックのようなフィニッシュ
12回かき混ぜて、フレーバーが分かりやすい温度まで下げる。
MB
ナチュラルプロセス。湿度と温度の管理が可能な部屋でのプロセスにより、均一な処理が可能になった。それによりチェリーの持つフルーツの特性と甘さが、より豆に濃縮させることができる。
また収穫では、先端がまだ少し黄色の状態の熟度のチェリーを収穫することにより、一般的なナチュラルプロセスのコーヒーでは失われがちな酸を保持させることができる。
ミルク : 3オンス
フレーバー宣言 : ラズベリージャム、デーツのような甘さ、チョコーレートのフィニッシュ
SB
実験的なウォッシュトプロセス。1,980mの最も高い標高のエリアから収穫期最後の10kgのチェリーを摘み取り、パルピングをして、12時間の乾燥のあとに2回目のウォッシングをした。これによりクリーンさと、伝統的なゲイシャ種の最も生き生きとした特性であるホワイトフラワー、ストーンフルーツ、シトラスを感じることができる。
1. モザイクホップティー 35ml (このホップがだすフローラルとシトラスが、エスプレッソのホワイトフラワーと合わさり、ベルガモットのフレーバーになる)
2. ノースカロライナ産のダークハニーシロップ 12ml (タクタイルのバランスとボディーを与える)
3. 酒石酸水溶液 30ml (ストーンフルーツのフレーバーと合わさり、よりトロピカルでエキゾチックなフレーバーを与える)
冷凍させた窒素を注入することで、温度を下げるとともに、液体にテクスチャーとボディを与え、またフレーバーをバランスよくする。
フレイバー宣言 :ベルガモットのアロマ、パッションフルーツ、ライムゼスト、ロングフィニッシュ、トニックのようなアフターテイスト